キナバルのプラトー(山頂台地)を横断し、親指岩を初めて目にした時、
想像以上のデカさと威圧感に恐怖すら覚えた。
(親指岩を見上げる。基部からの標高差約100m。右側が北面)
平山さんはここを登ろうしている。
ただ、登るだけじゃない。
もっとも傾斜の強い北面に、高難度のルートを開拓しようというのだ。
標高は4000メートル近い。
この巨壁が差し向ける威圧感を受け止めてなお、
平山さんはもっとも攻撃的なラインにボルトを打ち始めた。
強い。
クライミングにおける肉体的強さ以上に、
気持ちの強さ、思いの強さでそのラインを見出したに違いなかった。
作業が一段落した平山さんから
「降りてきていいよー」
と声がかかる。
親指岩山頂部から奈落の底へ向かって垂れ下がった一本の白いロープ、
そいつに、グリグリ2をセットする。
いきなりハングしていて懸垂下降するほど壁から離されてゆく。
足下はガスで地面が見えない。
高所の寒風が股間を吹き抜ける。
今、自分を支えているのはビレイ器具グリグリ2のみ。
目の前には、自分には登れる可能性の微塵も感じられない岩壁の景色が流れてゆく。
* * *
親指岩2ピッチ目。
グレードは未知数だが、少なくとも5.14+はあるだろう。
平山さんの本気トライ。
出だしからハードなムーブが続き、レストポイントからボルダームーブの核心に入る。
(核心前のレスト。低酸素の中、呼吸も戻す)
手強い核心は、しかし平山ユージをもってしてもはじき返されてしまった。
ビレイする自分にもロープを通して無念さが伝わってきた。
この挑戦を支えたビレイ・ディバイスはグリグリ2。
(実際キナバルで使ったもの。ロープはこれにつながっている)
ビレイ器具はそのまま下降器になるが、グリグリ2は操作性が抜群にいい。
そればかりか、グリグリを用いてのユマーリング(ユマグリング!?)でも活躍。
使いやすく、信頼のおけるギアがあるからこそ、
極限の状況でクライミングが可能となる。
親指岩北面に、平山さんによって命が吹き込まれた。
最終日、帰り際に振り返ると
辺境の打ち捨てられたような岩峰に、新たな生命が宿ったように見えた。
細径ロープにも対応するようになったグリグリ2は¥10,500-